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ハナヤマタ 1組目 感想(前)「ここではないどこかへと踏み出す背中を押してくれるもの」(4754文字)

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 というわけで、1話の感想を書き始めるつもりが導入で終わってしまった前回の記事ですが、今度はちゃんと内容に踏み込んで行きたいと思います。

 いまのところは、物語を丁寧に追いながら、その都度雑感を書き込んでいく――ようはインサイトの記事でやっていたような形式でやっていこうと思ってます。

 

特別なものなんて何も持っていない、普通の女の子――関屋なる

 

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 副題「シャル・ウィ・ダンス?」

 一緒に踊ってくれますか?

 

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  オープニングが開けるとこの物語の主人公、関谷なるの独白が始まります。

 頭脳明晰、眉目秀麗――そんな理想の女の子が、自分であるはずがない。自分の平凡さを確認するように、彼女の目線はまさにその理想を体現する女の子の姿を捉えている。

 直後のシーンではその対比を強調するように、ドラムを叩いて輝く少女――笹目ヤヤと、彼女に憧れの眼差しをを向けるなるの関係が示される。

 

 ところで、ヤヤちゃんがやっているアマチュアバンド「Need Cool Quality」というのですが、もはや商業レベルですよね(笑)

 第一話にちょろっと演奏されるだけの「コドクシグナル」という曲なんですが、これがまた良い。作曲レベルも演奏も、既に中学生レベルなんて遥かに凌駕しています。歌詞に関しては、ちょっとこじらせた思春期中学生少女という感じが出ていて、そこはアニソン界のアラン・スミシー(失礼)畑亜貴さんがいい塩梅に作詞してくれています。

 

 

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「だって、バンドってかっこいいじゃない! 前からやってみたかったし、やっぱりしたいことした方が楽しいじゃん? ね、なるもそう思うでしょ?」
「……ぁ、私、今日、お父さんに早く帰ってくるように言われてたんだった。それに、図書館の本返さなきゃ」
「まだそんなの読んでるの?」
「え、だって面白いよっ、このお話はね、かわいい妖精さんが」
「あぁ、はいはいっ。なるはいつもメルヘンさんなんだから。ほら、急いでるんでしょ?」

 

 どうしてバンドをしようと思ったのか尋ねるなるに対して、かっこいいからとりあえずやってみたと言うヤヤちゃん。

 自分がやってみたいと思ったことには果敢に飛び込んで行ってなんでもものにしてしまう才能あふれる少女。

 自信たっぷりに言うヤヤちゃんからは、自分に対する信頼と――一方で「万能感」とでもいうようなものを感じます。

 自分にできないことはない。なんだってできる。そして、そんな自分のことをみんな認めているはずだ

 行ってしまえば、少し自己愛的傾向の強い女の子なんですね。しかし、それは現になんでもできてきたという経験に裏打ちされた(そしてこの先の物語の先取りになりますが、なるちゃんとの関係の中でも醸成された)自信なので、無理も無いといえばそうなのかもしれません。

 そんな彼女のパーソナリティは次の会話にも滲み出ていて――なるもそうおもうでしょ?と同意を求めたりしている。

 また、なるちゃんが自分の好きなお伽話の話しをしようとすると、興味なさげに遮ってしまう。

 一方のなるちゃんはどうかというと、自分の主体性に話が及びそうになると逃げ腰になってしまいます。自分が何者かになりたいと思いつつも、踏み出す方向がわからず、またその勇気も持たないことを意識したくない、気取られたくない、ということですね。

 ここらへんのやりとりの、ある種の歪さは今後の物語ですぐ表面化してくるのでここらへんにしておきましょう。

 

自分には何ができるのかわからない、等身大の少女の葛藤

 

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 なんとなるちゃんは居合少女なのである。

 揺らいだメンタルを立て直すために真剣で居合をする少女というのはこの日本全国にいったい何人居るだろうか……。既に普通ではないよ、なるちゃん。

 武道をするというのは、つまり言語的世界から一旦離れて身体性に立ち返るということですね。だいたい人間の悩みというのは、言語的に構造化されたシステムの中で自分を定位できないことからくる苦しみです。今どき、そこで自分の身体性を確認しようとするというのは、結構ユニークな行動様式な気もします。

 この話は程々にしておきまして、同情で居合の稽古をするなるちゃんのところへお父さんがやってきました。

 ここでもまた、ヤヤちゃんと同じように、もっと現実的に(ようは社会関係的に)何かやってみたいことはないのかと尋ねられて、再びなるちゃんは動揺するのですね。

 

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「小さい頃、一度だけ大きな映画館に連れて行ってもらったことがある。見窄らしかったヒロインの少女は、魔法使いや王子様と出会って、とても綺麗なお姫様になった。私もいつか、こんな風に輝ける日が来るのかな。そう思うと、胸が踊った。いつか誰かが、この世界から連れだしてくれる。そう思って私、ずっと待ち続けた。物語のヒロインみたいな、不思議な出会いを……」

 

 大きなお城とお姫様――西御門多美お姉ちゃんの登場。

 原作だとここでは登場しないのですが、なるが子供の頃夢見た(そして今も夢見る)お姫様の象徴として、人物紹介がてらここに入れてきたのは上手い構成だと思います。

 タミちゃんのお話はもう少し先なのでここではあまり言及しないでおきます。とりあえず、彼女は典型的箱入りお嬢様で、ヤヤとは違うタイプの才色兼備な女の子です。ようは大和撫子。父親同士が友人であることの繋がりで、二人は幼馴染。そんなわけでなるちゃんの小さいころからの憧れの人なわけですね。

 

 ヤヤちゃんとタミお姉ちゃん、二人の「特別」な人間に憧れ好意を寄せつつも、そのことは同時に、自分の平凡さを一層際立たせてしまう。

 自分も何かをしたい、お伽話の世界の中に思いを馳せるだけでなく。

 しかし、ここでもなるが望むのは、そんなここではないどこかの現実へと自分を導いてくれる何者かであるわけですね。

 

ここではないどこかへと踏み出す背中を押してくれるもの

 

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  満月と星が夜空を照らし、桜の花びらが舞い踊る夜。

 にわかに街は幻想の色を帯びていく。

 ここではないどこか、そこへ連れだしてくれる誰かを望んだなるちゃんの耳に、幻想的な世界に鳴り響く不思議な音が聞こえてくる。

 ここらへんの映像はやっぱり良いですね。何かあるんじゃないかと期待させる。

 

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妖精さん……」

 

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「(まって置いていかないで――っ)私も連れてって! 妖精さんっ!」

 

 いえ、罰当たりな外人です。それかニンジャです。

 

 幻想的な色彩に包まれた街の中、御伽の世界を望んだなるちゃんの前に現れた少女を、思わず妖精か何かと幻視してしまう。

 思わず声をかけるなるちゃんを前に、謎の金髪娘はニンジャさながら鳥居を足場に境内の奥へと飛び跳ねて行ってしまいます。

  原作だとここらへんは瓦垣根の上なんですが、アニメは演出優先。初見だと、本当に何かファンタジー的な要素を含んだ作品なのかと見紛うくらい、彼女に不思議な雰囲気を纏わせています。

 映像美や雰囲気作りは、流石にアニメという媒体の持ち味をフルに使っていて原作を超えてきていると思います。

 ここらへん、高度にまとまっているところも、僕がこのアニメ好きな要因だと思う。

 

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「いいですよ、あなたが望むなら、不思議な世界へ。だから、私と一緒に踊ってくれますか?」

 

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「大丈夫。ただ、くるくるくるくる、楽しく回っていればいんです。だから、ほら――」

 

「(素敵な笑顔、長いまつげ、大きな瞳。小さい身体に、高くて綺麗な声――。こういう子をみんなヒロインって呼ぶんだろうな)」

 

 唐突にメルヘンなことを宣う女の子に対して、実にノリの良いガイジンニンジャである。

 とまあニンジャ云々は置いといて、自らここではないどこかへと連れだしてくれる誰かをなるちゃんは望みながら、いざその段になると、一歩踏み出していくことを尻込みしてしまいます。

 

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「ふにゃ」
「やっぱりダメ……。私には無理ですっ、ごめんなさい迷惑かけてっ!」
「ふぁっ!エッ!なんでですかぁ!」
「だって私……輝いてないもん」

 

 待ち望んだチャンスが巡ってきたのに、自分に自信が持てないなるちゃんは、差し出された手を突き返してしまう。

 目の前で自分の手を引いて妖精のように美しく踊る女の子の姿もまた、タミお姉ちゃんやヤヤちゃんのように、なるちゃんの劣等感を刺激してしまう。

 自分はまだ輝いていないから、その先へは行けない、と言う。そんな自分がここではないどこかへ足を踏み出していったとしても、憧れの誰かのようには輝けないと。魔法使いが現れて舞踏会へ行くためのドレスとかぼちゃの馬車を用意してくれる、そんな御伽の世界を望むことしか、今のなるちゃんにはできないのですね。

  輝けるかどうかは、自分で足を踏み出していったその先で、自ら確かめるしかないのですが。

 

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「迎えに行きますっ!なんだかわからないですけれど、人は誰でも頑張れば輝けると思うのでっ!だから、待ってて下さい!絶対に、迎えに行きますから!」
「(生まれて初めて、こんな、何もない私に、そんなことを言ってくれた人はっ。けれど、本当に、私でも輝けるのかな)」

 

 あれ、これってグランドフィナーレだっけ? と見紛うくらい盛大に花火が打ち上がります。

 まるで二人の出会いとこれからを祝福するように。

 ――人は誰でも輝ける。だから迎えにいく。

 自分も輝きたいと、踏み出したいと願ったなるちゃんのささやかな気持ちの表出に対して、まだ合って数瞬の女の子が、絶対肯定の言葉を投げかける。

 幻想的な世界の中、盛大に打ち上がる花火と彼女の曇りのない笑顔を前に、その言葉は有無を言わせぬ説得力を持ちます。

 人が何か内発的な思いの萌芽を抱きながらも、どこかでそれを感じ、従って生きることを抑圧してしまうとき、必要なのは誰かに背中を押してもらうということです。

 これまでの記事でも書いてきたことですが、そういう風に人間の内発性を信じれる人を、「愛の人」と僕は呼んできました。

 またそういう風にあるがままにお互いを尊重し合える関係が、本当の「友人」となりえる。

 もうアニメ的な映像表現目一杯使って、そういう「応援」のメッセージを伝えているわけですね。

 そういうことを感じられる人は、このシーンでなるちゃんに共感してぐっとくるかもしれません。

 メッセージ自体もそうですけれど、こういう有無を言わせぬいきおいいっぱいの演出、僕は大好きです。

 

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(もうこれ完全に飛んでるよね。歩道とかそういうレベルじゃないよね。パルクールなんて超越してるよね)

 

「ちゃんと歩道を歩きなさ―い!」

「座敷わらし……?」

 

  オヤカター! 空から和装の金髪幼女ニンジャがー!

 

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アメリカ合衆国ニュージャージー州プリンストンからきました、ハナ・N・フォンテーンスタンドです! ずっと日本にあこがれていたので、今ここに居るのがとっても嬉しいです! みなさんと早く仲良くなりたいので、遠慮せず私のことを――あっー!」

「な、なにっ!」

「すごいすごい! こんなに早く! こんにちわ、やっぱり会えましたね!さっそく迎えにきました、私のことはハナと呼んで下さい!それじゃああらためて、私と一緒によさこいしませんか?」

 

 というわけで、謎の金髪幼女、もといハナ・N・フォンテーンスタンドが転入してきました。ハナヤマタ1組目、未だAパート。

 インサイトみたいに長くならないといいつつ既に5千字近い……。

 まあ内容的には軽いからええやろ。

 

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